従業員に残業代を請求されたときに放置するリスクと確認すべきポイント
従業員に残業代を請求された場合、放置はNG
従業員に残業代を請求された場合、面倒だからといって、対応をそのまま放置するべきではありません。
対応を放置すると、会社と従業員間のトラブルだけではなく、社会的な信用を失う可能性があります。
残業代請求を放置した結果、以下のようなリスクを負うことがあります。
- 従業員から労働審判や訴訟を起こされる可能性がある
- 未払い分の残業代よりも多い金額を支払わなければならない可能性がある
- 残業代の未払いが広まり、社会的な信用を失う可能性がある
- 労働基準法違反等を理由に会社や個人に対し刑罰を科される可能性がある
具体的にどのようなリスクを負うのか、それぞれ確認していきましょう。
従業員から労働審判や訴訟を起こされる可能性がある
従業員からの残業代請求を放置していた場合、労働審判や訴訟を起こされる可能性があります。
労働審判は、従業員が会社に対し、不当解雇や残業代の不払い等の労働トラブルを理由に裁判所に申し立てる手続きです。
労働審判の特徴として、基本的に3回以内で審理を終え、労働トラブルの解決を目指せることが挙げられます。
実際に、労働審判の平均審理期間は、77.2日となっており、申し立てられた審判のおよそ70パーセントが3か月以内に終結しています。
従業員の立場なら、労働審判は迅速に労働トラブルを解決できる、有効な手段です。
しかし、会社等の事業主の立場だと、短い準備期間で裁判所を納得させる証拠書類や答弁を考えなくてはなりません。
一方で、労働訴訟は、平均審理期間が半年から1年と労働審判に比べ長いです。
また、労働審判の成立は、基本的に会社と従業員の合意が条件となりますが、労働訴訟は、判決にまで至った場合、勝者と敗者がはっきりします。
労働訴訟は、従業員の主張に対し、反論する準備を行える期間が長いですが、一方で敗訴した場合、早期に解決した場合よりも、コストがかさむ可能性があります。
未払い分の残業代よりも多い金額を支払わなければならない可能性がある
残業代のトラブルを放置した場合、早期に対処した場合よりも、多い金額を支払う可能性が高くなります。
残業代の不払い期間が長くなるほど、審判や裁判等で残業代の支払うとなった場合、遅延損害金の金額がかさみます。
遅延損害金は、従業員が在職している期間は年利3パーセント(※)、退職期間には年利14.6パーセントが課されます。
遅延損害金は、本来の支払期日の翌日から発生するので、未払いの期間が長ければ長くなるほど、その金額が高くなります。
さらに、訴訟によって裁判所から「会社が悪質な行為を行った」とみなされた場合、ペナルティとして付加金の支払いを命じられる可能性もあります。
付加金の上限は、残業代と同じ額です。
したがって、最悪の場合、本来支払うべき金額の2倍以上の金額を支払わなければならなくなるケースもあります。
※民法改正前の2020年4月1日以前の遅延損害金は年利5パーセント(又は6パーセント)となっています。
残業代の未払いが広まり、社会的な信用を失う可能性がある
残業代の未払いを放置するリスクとして、会社の社会的な信用が失われる可能性があることが挙げられます。
会社の残業代の未払いトラブルが、インターネット等を介して、世間に広まった場合、会社のイメージが損なわれます。
会社のイメージが損なわれた結果、取引している会社からの信用を失い、取引を打ち切られてしまうこともあります。
また、ブラック企業のイメージがつき、新たに従業員を雇い入れしたくても、人が集まらないと言ったリスクも生じます。
労働基準法違反等を理由に会社や個人に対し刑罰を科される可能性がある
残業代の未払いを放置するリスクとして、刑事責任を問われ、刑罰が科せられることがあります。
会社そのものには、罰金が科せられ、違法な残業を命じた者が会社内にいた場合には、その者に対しても刑罰が科せられる可能性があります。
さらに、労働基準関係法令違反で処分を受けた場合、助成金を受給できなくなるデメリットもあります。
このように、残業代の未払いを放置していると、会社が負うリスクが高くなります。
そのため、従業員からの残業代請求を放置することは絶対に避けるべきでしょう。
従業員に残業代を請求されたときに確認しておくべきポイント
従業員に残業代を請求されたとき、確認しておくべきポイントはあるのでしょうか。
従業員に残業代を請求された場合、次のような点を確認しておくと良いでしょう。
- 残業代の時効が完成しているか
- タイムカード等の勤怠記録を確認する
- 残業代を請求している人が管理職に就いているかどうか
残業代の時効が成立しているか
未払いの残業代を請求された場合、その残業代の時効が成立しているかどうかを確認してください。
未払いの残業代の時効は、支払日の翌日から3年となります。
支払日から3年を超えていた場合には、時効援用することができます。
時効援用とは、時効が成立していることを従業員に伝えることによって、支払い義務を消滅させることを言います。
時効援用を利用する場合、電話等、口頭でも成立しますが、後々のトラブルを防ぐため、内容証明等、記録に残るサービスを使った方が良いでしょう。
タイムカード等の勤怠記録を確認する
従業員から残業代の未払いの請求を受けた場合、その従業員の勤怠記録を確認してください。
請求されている金額が過剰だったり、残業の事実がなかったりする場合もありえます。
また、タイムカード等の勤怠記録は、従業員と審判や訴訟となった場合、相手方の主張に反論する重要な証拠になる可能性があります。
残業代を請求している人が管理職に就いているかどうか
残業代の未払いを請求している従業員が管理職等、役職についているかどうかを確認してください。
次のような従業員から残業代の未払い請求が合った場合には、残業代を支払わなくてすむ可能性があります。
- 経営に携わっている等、会社内で重要な役職や権限をもっている
- 勤怠等の労務管理を受けていない
- 給料が役職に見合った待遇がなされている
これらの条件に当てはまる人のことを管理監督者と呼びます。
管理監督者の場合、残業代を支払う必要はありません。
ただし、管理監督者であるかどうかについては判断が非常に難しいです。
したがって、このようなケースでは自己で判断せず、弁護士に相談した方が良いでしょう。
従業員とのトラブルは当事務所にご相談ください
今回は、従業員に残業代の未払いを請求されたときのリスクと確認のポイントについて解説させていただきました。
2019年から始まった働き方改革によって、従来の働き方が見直しされてきており、会社側にとって労働法関連はかなり厳しく規制されてきています。
従業員とのトラブルは、早めに対応することによって、会社側のリスクを最低限に抑えられる可能性が高くなります。
神戸ブライト法律事務所では、従業員とのトラブルがあったときはもちろんのこと、トラブルを未然に防ぐサポートも行っております。
労働問題に関してご不安な方、困っている方はぜひ弁護士佐藤英生までご相談ください。