就業規則の重要性とは?作成ポイントや変更手続きなどを解説
就業規則が従業員にとって重要な存在であることはすでに認識していることでしょう。しかし、それがなぜ大切なのか、また会社にとってなぜ重要なのか、あまり考えたことがない方も多いと思います。
そこでこの記事では、就業規則の重要性について触れ、その上で就業規則を作成するときのポイントや作成・変更の手続きなどにも言及していきます。
就業規則はなぜ重要なのか
就業規則の重要性について、あらためて見直していきましょう。
「一定規模以上の会社では法律で作成が義務付けられているから」という意味でも重要な存在と言えますが、以下の目的を果たすために就業規則は効果を発揮し、だからこそ重要であると言えます。
- ルールの明確化
- 従業員の統率
- 恣意的対応の防止
- トラブル解決
それぞれ詳しく見ていきます。
ルールを明確化するため
就業規則は、会社が従業員を従わせ、監視するために作成するものではありません。一方的に押し付けるものではなく、双方の権利義務を明確化させ、会社を発展させていくことが大きな目的です。
そのため、就業規則に定めたからといって会社側が自由に従業員に対し処分を下せるようになるわけではありません。
使用者(会社)と労働者(従業員)の関係において、何をできて何をできないのか、一定事項については法律にも定められているのですが、就業規則は自社の実態に即する形でルールをより明確にする役割を担います。
例えば、法律に抵触しない範囲内で様々な独自ルールを設けていくことになります。会社が「誕生日休暇」などといった制度を作り、休みを別途設けることも可能です。当然、口頭のみでその制度を周知させたところで従業員はその利用に不安を感じてしまいます。当該制度の利用に条件はあるのか、有給で休暇が取れるのか、そもそもその制度が本当に存在しているのかという様々な疑問を抱えてしまいます。
就業規則は、法定の義務を果たす上での会社の取り組みを明確化するだけでなく、会社が独自に設定した制度の明確化を図る上でも重要な存在なのです。
従業員を統率するため
従業員が従うべき基本的ルールがないと、従業員を統率できないというリスクが生じます。内容に不備がある場合も同様です。
そこで就業規則は、従業員をまとめ、社内秩序を維持するという観点からも重要なものであると言えます。会社側が押し付けるように作成するものではありませんが、全体のためにルールを設け、ある程度の拘束力は持たせなければなりません。
恣意的な対応を防止するため
会社側から従業員に対する処遇があいまいになったり、恣意的になったりすると、従業員は不満を持ちます。
「上司によって対応が変わってしまう」「適切に評価されない」といった事態が生じないためにも就業規則が重要です。
トラブル解決に根拠を持たせるため
労務トラブル等が生じた場合、関係従業員の行動に合わせた対応をし、そのトラブルを解決していかなければなりません。しかし、明らかに法に背くような行為を除いて、事前に禁止行為などを明示していなければ、根拠を持って解決に取り組めません。
トラブルを引き起こした従業員による「禁止されている行為とは知らなかった」という主張が通ってしまう可能性も出てきます。
逆に、適切に禁止事項等が定められていれば、就業規則第○条を適用するといった形で、根拠を持って解決ができるようになります。
就業規則の作成にあたって注目すべきポイント
それでは、就業規則の作成にあたり注目すべきポイントを簡単にまとめていきます。
ここでは、最低条件である「絶対的記載事項の記載」、そして第一に遵守しなければならない労働基準法など「労働関連法令の改正への追随」、さらに近年注目を集めている「ハラスメントに関するルールの記載」について解説します。
絶対的記載事項を適切に規定
就業規則の記載方法などは、基本的に会社の自由です。
しかし、「絶対的記載事項」と呼ばれる、必須の事項(下記)があります。
1.始業・終業の時間、休憩時間、休日休暇、交替制であれば就業時転換に関すること
2.賃金の計算方法、支払い方法、賃金の締切りと支払い時期、昇給に関すること
3.解雇の事由など、退職に関すること
労働基準法や各種法令の改正に即した内容にすること
労働基準法など、就業規則に関わる法令はいくつかあります。
作成当時に適法なものであったとしても、その後法改正がなされ、適切なものとは言えなくなる可能性があります。
そこで、各法令につき改正法の内容にも適応していく必要が出てきます。
例えば、近年でも高齢者の就業確保に関する努力義務など、社会情勢の変化に応じて就業規則の内容を変化させていくことが望まれます。
法改正に際して新たに条項を設けるという場合には、厚生労働省等から公開されているモデル就業規則の内容も参考にすると良いでしょう。
高年齢者雇用安定法の改正に関しても、どのように規定を置くと良いのか、イメージしやすくなるでしょう。
詳しくは弁護士など専門家に相談すると良いです。
パワハラ防止法への適応
近年は社内で起こる各種ハラスメントが社会問題として取り沙汰されることが増えています。
法令の見直しなども行われていますし、また、世間の注目が高まっているということもあり、各会社はハラスメント防止に向けた施策を講じる必要に迫られています。
パワハラに関しては、労働施策総合推進法にて定義がなされ、会社がパワハラ防止策を講じることを義務付けられています。
一般にパワハラは以下6類型に分類可能です。一度パワハラに該当し得る具体的な言動を確認しておくことが大切です。
1.身体的攻撃
2.精神的攻撃
3.人間関係の切り離し
4.過大要求
5.過少要求
6.個の侵害
セクハラに関しても、会社は防止体制を十分なものにすべきです。周知啓蒙・相談体制の整備・調査等の事後対応に関して就業規則内にも定めていきましょう。セクハラに関連して、ジェンダーハラスメントにも留意しなければなりません。ジェンダーハラスメントは固定的な性差概念に基づいた差別や嫌がらせのことで、セクハラやモラハラにも該当し得ます。どこから該当してしまうのか、線引きは難しいですが、「男のくせに」「女のくせに」といった発言が問題になり得ることは認識しておきましょう。
ハラスメントについて、各法令で企業に「適切な措置を講ずる」義務が明示されており、その具体的内容として再発防止策の策定も含まれると考えられています。各施策を実現できるよう、就業規則内にパワハラなど、ハラスメントに関する条項を設けていきましょう。
就業規則作成・変更手続きについて
作成した就業規則は、「過半数組合」または「従業員の過半数代表者」からの意見書を添付して、所轄労働基準監督署への届出が必要です。
作成した就業規則については、見やすい場所に掲示・備え付けたり書面を交付したりして、従業員に対して周知させなければなりません。これも法律上の義務です。
就業規則の変更をした場合も、作成したときと同じく届出等の手続きを要します。
おおまかな手順としては以下の通りです。
1.規定内容を変更
2.意見書を作成
3.労働基準監督署に届出
意見書の作成に際しては、従業員の代表から意見聴取をする必要があります。ただし、その代表は、工場長や部長といった管理監督者でない者がならなくてはなりません。
なお、就業規則に関する届出は、電子申請が可能です。政府も「e-Gov電子申請」の利用を推奨していますし、会社としても手続きに係る手間が削減できるなどメリットが得られます。
就業規則の作成は専門家に依頼を
簡単に就業規則に関して解説してきましたが、実際の作成は容易ではありません。法的な知見を有していなければ幅広い法令へ対応し、適切な条項を設けていくことはできません。そのため就業規則の作成場面では、弁護士など専門家のサポートの必要性は高いです。
すでに作成済みの会社であっても、長年変更手続きをしていないというケースでは近年の法令に準拠できていない可能性が高いです。一度専門家に相談し、変更の必要性について確認してもらうようにしましょう。
神戸ブライト法律事務所では、従業員とのトラブルがあったときはもちろんのこと、トラブルを未然に防ぐサポートも行っております。
労働問題に関してご不安な方、困っている方はぜひ弁護士佐藤英生までご相談ください。